秋灯の塔
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秋灯の塔
2025/5/17制作の作品
『秋灯の塔』(The Tower of Autumn Lights)は、音と映像が織りなす五楽章構成のサウンドスケープ作品である。この作品では、日本の伝統音楽の要素と電子音響処理を融合させながら、「光と影」「自己と他者」「記憶と再生」といった二項対立の統合を試みている。
視覚的には、3Dモデリングによって生成された塔のイメージが、音の波形と連動して変化していく。この塔は作品のテーマである「自己の内面への旅」を象徴している。音楽が進行するにつれて塔の様相が変化することで、聴き手の意識の変容を視覚的に表現しようと試みた。
第一楽章「霧と仮面の舞」では、グラニュラー合成技術によって分解・再構築されたピアノ音と、日本の笙を模したドローン音を組み合わせた。ここで表現したのは「仮面」としての自己、つまり社会的な顔と内面の乖離である。逆再生した弦楽器の音は時間の逆行を暗示し、内省への誘いとして機能する。
第二楽章「反面、鏡、影」では、バイノーラル録音技術を活用し、左右に分かれた音響空間を構築した。アイヌの口琴「ムックリ」を想起させるパルス的な音が両耳を行き来することで、自己の分裂と統合のプロセスを表現している。
第三楽章「蘭と本質の場所」は、作品の中心に位置する重要な部分である。ここでは東南アジアのモン族の笛「ケン」を思わせる有機的な音色を採用した。これは作品全体の中で最も人間的で温かみのある音響空間となっており、自己の本質と出会う瞬間を表現している。
第四楽章「灯台と毒の薔薇の記憶」では、複数の音響層を重ねることで、記憶の多層性を表現した。不協和から調和への移行は、過去のトラウマ的記憶が昇華されるプロセスを象徴している。心拍を思わせるリズムは生命の鼓動であり、真の自己との再会を暗示する。
最終章「再生と静寂の舞」では、シンプルなドローン音から始まり、徐々に色彩が豊かになっていく構成を採用した。第一楽章の音響要素が変容した形で回帰することで、螺旋的な時間構造を表現している。そして全ての音が徐々に消え、静寂へと帰していく設計は、禅の思想における「空」の概念を音響化する試みである。
この作品ではWeb Audio APIとThree.jsを組み合わせ、音と映像が有機的に連動するシステムを構築した。全ての音源はブラウザ上でリアルタイム生成されており、訪問するたびに微妙に異なる表情を見せる生命的な作品となっている。
特に注力したのは、日本および東アジアの伝統的な音響感覚と現代的な電子音響処理の融合である。西洋音楽における調性や和声の概念に依存せず、音色(音響スペクトル)の変化と空間性を重視した音響設計を行っている。これは日本の雅楽における「間(ま)」の概念や、自然音を取り入れた音楽観に通じるアプローチである。
この作品は単なる視聴覚体験を超え、鑑賞者自身の内面への旅を促す「メディテーション装置」として機能することを意図している。ヘッドフォンでの鑑賞を推奨するのは、より没入的な体験を通じて、日常的な意識から離れた状態へ誘うためである。
インターネットという公共空間に作品を置くことで、場所や時間を超えた共有体験の可能性を探っている。一方で、デジタル技術に依存しながらも、人間の感覚や精神性を中心に据えた作品創造の可能性を模索し続けたい。