様々なパターン

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様々なパターン

2025/11/15制作の作品

本作品は、日本の国旗「日の丸」をブラウザ上でパラメトリックに操作可能なインターフェースとして提示する。旗の寸法比、日章(赤い円)の大きさ、位置、色彩(マンセル値3R 4/14を参考値として)といった要素を連続的に変化させることができ、さらにその視覚データをTone.jsによって音楽に変換し、再生する機能を持つ。 この作品の核心は、国旗という絶対的な国家表象を、可変的なデザインパラメータの集合へと還元する行為にある。「日の丸」は日本のナショナル・アイデンティティを凝縮した視覚記号であり、その形態は法令によって厳密に規定されている。だが本作品において、その「規定値」は数多ある可能性の中の一つのパターンに過ぎない。 ユーザーがスライダーを操作すると、日章は中心から逸れ、規定の赤から逸脱し、巨大化あるいは縮小する。国旗のアイデンティティを保証していた固定性は失われ、無限のバリエーションが生成可能になる。ここには、国家象徴の神聖性を支える「不変性」という幻想に対する明確な批評がある。 特筆すべきは、色彩設定において「マンセル値3R 4/14参考」と記述されている点だ。これは日本国旗の赤色を規定する工業規格であり、国家が色彩すら科学的に管理しようとする姿勢の表れである。作品はこの数値を「参考」として提示しつつ、ユーザーに自由な色相・彩度・明度の操作を許可する。科学的合理性による管理体制を引用しながら、同時にその束縛から逸脱する可能性を示唆するこの二重性は、極めて批評的である。 さらに重要なのは、視覚的データを音楽に変換する機能である。コンソールログによれば、作品は日の丸のパラメータから143音符を生成する。この変換は、視覚的国家象徴を別の感覚モダリティへと翻訳することで、その表象性を相対化する。赤い円と白い矩形という視覚言語は、音高と音価という聴覚言語へと変換され、元の政治的意味性から切り離される。 国旗が音楽になるとき、それはもはや国家を表象する記号ではなく、抽象的なデータ構造となる。この脱コード化のプロセスは、国家象徴が持つ権威性を解体し、それを純粋な情報パターンとして扱う。 本作品のインタラクティブな性質も看過できない。ユーザーは受動的な観察者ではなく、国旗のデザインを積極的に操作する主体として位置づけられる。この能動性は、国家象徴に対する従属的な関係性の転覆を意味する。通常、国旗は「与えられるもの」であり、市民はそれを受け入れることしかできない。だが本作品では、ユーザーが国旗をデザインし、変更し、保存する権限を持つ。 この権力の転換は、極めて政治的な意味を持つ。国家表象の生成過程への参加を許可することで、作品は「国家とは誰のものか」という根源的な問いを投げかける。 タイトルは一見中立的だが、その含意は深い。「様々なパターン」という表現は、現在の日本国旗がただ一つの可能なパターンに過ぎないことを示唆する。歴史的偶然性や政治的選択の結果として今日の形態が存在するのであり、それは絶対的・本質的なものではない。 この相対化は、ナショナリズムの基盤を揺るがす。国旗が国家の本質を表すという信念は、その形態の固定性に依拠している。だが無限のバリエーションが可能であるなら、どの形態が「真の」日本を表すのか。この問いに答えることは不可能であり、そこにこそ作品の批評的力がある。 本作品は、p5.jsによる視覚生成とTone.jsによる音声合成を統合することで、ブラウザベースのアート実践における技術的洗練を示す。同時に、その技術は概念的探求に奉仕する。パラメトリックデザインという手法は、国家象徴の脱神聖化という思想的意図と完全に一致している。 「規定値に戻す」ボタンの存在も示唆的だ。これは、現行の国旗デザインを「規定値」=「デフォルト設定」として位置づける。デフォルト設定とは、変更可能だが慣習的に使用される標準パラメータである。国旗をデフォルト設定と呼ぶことは、それを絶対的規範から相対的選択へと降格させる行為に他ならない。 『様々なパターン』は、国家象徴に対する静かだが強力な批評である。派手な政治的主張や挑発的なイメージを用いることなく、単にパラメータを調整可能にするという行為を通じて、国旗の絶対性という神話を解体する。 ユーザーが日章を移動させ、色を変え、音楽を聴くとき、その体験自体が批評行為となる。作品は鑑賞者に問いかける―この形態は本当に不変であるべきか。この赤は本当に唯一無二か。この配置は本当に絶対か。そして最終的に、国家とは何か。 インターネットアートの可能性は、まさにこの種の静かな問いかけにある。ブラウザという日常的なインターフェースを通じて、政治的象徴の恣意性を体験的に理解させること。本作品は、その可能性を見事に実現している。

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