Neo-Cubism

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Neo-Cubism

2025/11/29制作の作品

「Neo-Cubism」は、ウェブカメラを通じて捉えられた現実を、色彩情報のみによって多視点的に解体・再構築するインタラクティブアート作品である。タイトルが示唆するように、20世紀初頭のキュビスムが対象を複数の視点から同時に描こうとしたのと同様に、本作品は時間軸に沿って撮影された複数のフレームを、色彩という要素に還元して重層的に提示する。
本作品の中核となるのは、リアルタイムで取得されるカメラ映像を同系色グループに分類し、それらを輪郭線として抽出・蓄積していくプロセスである。撮影ボタンを押すたびに、その瞬間の画面が色彩分析され、紫系、青系、黒系といった色相グループごとに分離される。これらの色彩領域は輪郭として抽出され、既存のレイヤーに追加されていく。
このアルゴリズムが興味深いのは、被写体の形態そのものではなく、その色彩分布に着目している点だ。人間の顔、部屋の家具、照明といった具体的なオブジェクトは、その輪郭線によって示唆されるだけで、最終的に画面を支配するのは色彩の分布図である。撮影を重ねるごとに、異なる時間に存在した同系色の輪郭線が累積し、元の写真的現実は抽象的なカラーマップへと変容していく。
ピカソやブラックのキュビスムが、対象を複数の視点から同時に描くことで三次元の真実に迫ろうとしたのに対し、本作品は時間的多視点性を導入している。連続的に撮影された各フレームは、異なる時間における同一空間の記録であり、それらが色彩という共通言語で重ね合わされることで、時間の堆積が可視化される。
しかし、ここには重要な転換がある。キュビスムが物体の形態的真実を追求したのに対し、Neo-Cubismは色彩という抽象的要素のみを抽出することで、具象性からより遠ざかる。右上に小さく表示される元のカメラ映像は、まるで「現実への参照点」として機能し、画面中央の抽象的な色彩構成との対比を強調している。
本作品の美的価値は、計画的な構図ではなく、ユーザーの撮影タイミングという偶然性に依存している。撮影者が動けば、新たな色彩領域が画面に加わり、静止していれば既存の輪郭線が強化される。この仕組みは、ジャクソン・ポロックのアクション・ペインティングにおける身体的偶然性を、デジタル空間における時間的偶然性へと置き換えたものと言えるかもしれない。
撮影を重ねるごとに、画面は次第に複雑化していく。初期のシンプルな輪郭線は、後続のレイヤーに埋もれながらも痕跡として残り続ける。この累積的プロセスは、絵画における筆触の積層に似ているが、本作品ではそれが時間軸に沿って展開される点が独特だ。
ウェブカメラという装置の選択も意味深い。現代社会において、カメラは監視装置としての側面を持つが、同時にビデオ通話やセルフィーといった自己表現の道具でもある。本作品は、そのカメラを通じて自分自身や周囲の空間を撮影することで、監視と自己観察、客体化と主体性という両義性を内包する。
特に、右上に継続的に表示される「素のカメラ映像」は、まるで監視カメラのフィード映像のようであり、鑑賞者=撮影者は自分が見られる存在であることを常に意識させられる。一方で、その映像から抽出された色彩の輪郭線は、極めて個人的な視覚的指紋として機能し、同じ空間でも撮影するタイミングや動きによって全く異なるパターンを生み出す。
本作品の限界もまた明らかである。色彩抽出というアルゴリズムの単純さは、視覚的多様性をある程度制限する。照明条件や被写体の色彩構成によっては、期待するような豊かな輪郭線が得られない場合もある。また、撮影を繰り返すことで画面が過度に複雑化し、視認性を失うリスクもある。
しかし、この単純さこそが作品の強みでもある。複雑なアルゴリズムではなく、色彩という誰もが理解できる要素に焦点を当てることで、技術的敷居を下げつつ、普遍的なテーマ——色彩と時間、観察と記録、具象と抽象——に触れることができる。
「Neo-Cubism」は、ウェブブラウザという民主的なプラットフォーム上で展開される視覚実験である。特別なソフトウェアも、高度な技術知識も必要としない。必要なのはカメラと、撮影ボタンを押すという単純な行為だけだ。しかし、その単純さの中に、色彩の本質、時間の可視化、デジタル自己表現の可能性といった複層的なテーマが織り込まれている。
本作品は完成された芸術作品というより、開かれた実験装置である。各ユーザーが生成する色彩のパターンは、その人の環境、動き、タイミングに依存し、決して再現不可能な一回性を持つ。この意味で、Neo-Cubismは単にキュビスムの現代的解釈ではなく、デジタル時代における新たな視覚言語の探求であると言えるだろう。

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