Still life
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Still life
2025/11/1制作の作品
「Still life」——伝統的には「静物画」を意味するこの言葉を、ジェネレーティブアートの文脈に置くことで、この作品は美術史における静物画の概念そのものを問い直す試みとなっている。
西洋美術において静物画とは、不動の対象を描写することで時間を凍結させる行為であった。果物、花、食器——それらは画布の上で永遠に「静止」し続ける。しかしこの作品において、鑑賞者が「📷 静止画を取得」ボタンを押す度に生成される画像は、常に異なる姿を現す。つまり「静物」でありながら、決して同じ姿をとどめることのない、パラドキシカルな存在なのだ。
視覚的に最も特徴的なのは、建築図面やフロアプランを思わせる幾何学的な線画と、不定形な色面との組み合わせである。直線的で合理的な空間表象の上に、青、グレー、ベージュといった抑制された色調の有機的な塊が配置される。この二つの要素は互いに干渉し合いながらも、完全には融合せず、一種の緊張関係を保っている。
これは人工的な構造(建築)と自然的な偶然性(生成アルゴリズム)の共存を視覚化したものと読むこともできる。あるいは、デジタル空間における「住まい」の概念——私たちがウェブ上に構築する様々な「場所」——の抽象的な表現かもしれない。
Tone.jsを用いた音楽生成は、視覚的な静止画と対をなす重要な要素である。鑑賞者が「🎵 楽曲を再生」を選択すると、画像に呼応した音楽が流れ始める。これは単なる「BGM」ではなく、同じアルゴリズムから派生した視覚と聴覚の双子である。
ここでも「静止」というテーマは転覆される。静物画は本来沈黙の芸術だが、この作品の「静止画」は音を持つ。しかもその音は、画像と同様に、毎回異なる姿をとる。鑑賞者は視覚と聴覚の両方を通じて、デジタル空間における一回性の体験を味わうことになる。
「📷 静止画を取得」というインターフェースは、作品の批評性を象徴している。鑑賞者はカメラのシャッターを切るように、この仮想空間から一枚の「写真」を切り取る。しかしそこに写っているのは、既に存在していた風景ではなく、シャッターを切る行為そのものによって初めて生成された風景である。
写真とは本来、現実を記録するメディアだった。しかしこの作品において、シャッターは記録ではなく創造の装置となる。鑑賞者は観察者ではなく、共同制作者の位置に置かれる。
最終的に、この作品は21世紀における「静物画」の可能性を探る実験と言えるだろう。固定された画像ではなく、無限に変容しうる可能性の束。視覚だけでなく聴覚をも巻き込んだマルチモーダルな体験。そして何より、作品と鑑賞者の関係性の再構築。
「Still life」というタイトルは、アイロニーであると同時に希望でもある。デジタル空間において、「静止」とは存在しない。すべては流動し、生成され続ける。しかし、その流動の中にこそ、新しい形の「静けさ」——アルゴリズムの静けさ、計算的美学の静けさ——が宿っているのかもしれない。